平成23年度 老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)「地震による津波で被災した一人暮らし高齢者・高齢者世帯の生活再構築のための支援過程の構造化」事業報告
「地震による津波で被災した一人暮らし高齢者・高齢者世帯の生活再構築のための支援過程の構造化」事業は、厚生労働省より、平成23年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分:高齢者保健福祉施策の推進に寄与する調査研究事業区分)を受けて実施した単年度事業です。
内容は、「調査研究事業Ⅰ 地震による津波で被災した高齢者等の健康・生活面の課題分析と保健活動への提案」、「調査研究事業Ⅱ 地震による津波で被災した高齢者等への支援過程の構造化に向けた基礎研究」の大きく2つに分かれています。
調査研究事業Ⅰでは、震災1.5-2か月後、ボランティア保健師が全戸家庭訪問で実施した岩手県大槌町での健康生活調査について、大槌町からの依頼によって約5千件の結果集計を行い、健康・生活面の課題の明確化と、復興に向けての保健活動による対応策を提案しました(図1、および映像の「東日本大震災 保健師による大槌町全戸家庭訪問と復興支援活動」をご覧ください)。
調査研究事業Ⅱは、被災地の自治体職員や地区組織等関係者、外部から被災地支援に入った保健師、合計158名の方々への面接調査を行い、その分析から「被災地と被災者の理解を深める」、「被災者の健康課題と対応方法を検討する」、「平時・有事の災害保健活動のあり方を示す」ことを目的として研究成果を創出した事業です(図2、表)。
これらの成果の要約・抜粋は、「被災者理解」「被災者支援」「災害保健活動」「エピソード集」に掲載しています。
また、本事業では、津波被害を受けた対象や平時・有事の災害保健活動の理解を促進することを目的としたDVDを作成し、その映像はホームページにも掲載しました。今後の災害支援活動や、平時の地域づくりに少しでも活用していただければ、事業班一同これほど嬉しいことはありません。
A.被災地と被災者を理解するために | 活用の方向性 |
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1. 津波災害による大槌町の年代別・性別・地域別人口ピラミッドの様相 (村嶋幸代、岡本玲子、寺本千恵) |
被災地理解のための教材 復興計画策定の基礎資料 平時の健康格差是正の検討 |
2. 津波災害が大槌町にもたらした人々の移動 (岡本玲子、小出恵子、西田真寿美) |
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3. 津波被災地で生きる住民ボランティアの痛みと強み (西田真寿美、草野恵美子、小出恵子) |
被災者理解のための教材 住民・関係者の力量形成支援方法の検討(アクションリサーチ、コミュニティエンパワメント) |
4. 津波被災地に入った外部支援保健師が把握した住民の回復力 (岸恵美子、岡本玲子、草野恵美子) |
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5. 津波被災地の医療・福祉関係者が遭遇した困難と活かされた強み、今後の課題 (草野恵美子、野村美千江、西田真寿美) |
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6. 津波災害により行政機能が麻痺した自治体の保健師の体験と思い (岡本玲子、小出恵子、岩本里織) |
被災地自治体職員の理解のための教材 被災地自治体職員のレスパイト支援方法とチェックリスト開発(疲労度別休息必要度等) 有事の外部介入方法とチェックリスト開発(リーダーシップ、命令系統・判断機能等) |
7. 津波被災半年後の自治体職員の語りから読み取れた身体的精神的苦悩 (岩本里織、岡本玲子、多田敏子) |
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8. 津波被災後半年時点で自治体職員が振り返る印象に残った被災後の業務 (岡本玲子、岩本里織、多田敏子) |
B.被災者の健康課題と対応方法について | 活用の方向性 |
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1. 津波災害後の大槌町全戸家庭訪問で見出された早急に対応が必要な者の健康問題 (寺本千恵、村嶋幸代、永田智子) |
有事の保健師活動マニュアル作成(時期ごとのアセスメント、系統的PDCAを保証する行動指針とチェックリスト) 災害保健師チーム(DPHNT)の組織化とトレーニング体制の可能性探索 |
2. 津波災害後の大槌町全戸家庭訪問で見出された在宅高齢者の健康・生活支援課題 (多田敏子、岡本玲子、村嶋幸代) |
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3. 津波災害が大槌町にもたらした血圧の変化 (鈴木るり子、岡本玲子、村嶋幸代) |
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4. 外部支援保健師が捉えた津波被災地の健康課題 (野村美千江、岡本玲子、佐尾貴子、倉田朋子、菅玲子) |
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5. 津波被災地における外部支援保健師の対応 (野村美千江、田中美延里、奥田美恵) |
C.平時・有事の災害保健活動のあり方について | 活用の方向性 |
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1. 津波災害を経験した住民・行政職員と外部支援保健師が必要と考えた地域における平時の防災・減災教育 (小出恵子、草野恵美子、野村美千江) |
災害の備えと有事の行動トレーニング教材開発(シミュレーション、近隣や組織での演習方法) 保健師による住民の防災・減災力量育成プログラム開発(学校編、企業編、地区編) |
2. 津波災害後に保健師が語った平時から必要とされる防災・減災のための保健師活動 (草野恵美子、小出恵子、野村美千江) |
防災・減災のための平時の保健師活動マニュアル開発(物品・資源整備編、データ・情報編、住民組織・体制編、チェックリスト) 有事に備えた保健師力量育成プログラムの開発(力量評価表) |
3. 津波被災地に入った外部支援保健師の語りから読み取れた災害に備える保健師の平時の情報管理 (齋藤美紀、岩本里織、城島哲子) |
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4. 津波被災地に入った外部支援保健師が把握した災害保健活動の課題と今後のあり方 (酒井陽子、岡本玲子、齋藤美紀) |
外部保健師の活動方法・現地との協働方法の検討と有事の外部保健師自己完結チェックリスト開発 (記録様式、全国標準化の仕掛け) |
5. 津波被災地に入った全戸訪問ボランティア保健師の語りから読み取れた保健師による家庭訪問の意義と特性 (城島哲子、岩本里織、齋藤美紀) |
保健師による家庭訪問の意義と価値の再考 |
本研究の倫理面は、岡山大学大学院保健学研究科看護学分野倫理審査委員会で承認を得ました(T11-01)。A1、A2、B1、B2、B3は、震災後大槌町が町民の安否確認と健康状態の把握を目的に、ボランティア保健師に依頼して行った健康生活調査(2011年4月23日~5月8日)の調査票を、個人名を除き匿名化した二次データとして預かり、町より分析を依頼されて行いました。それ以外は面接調査であり、対象者に調査目的および調査協力の自由やプライバシー保護等の倫理的配慮について記した文書を用いて口頭で説明し、同意書に署名を得て実施しました。